「トライデント」海王星の衛星トリトン探査ミッション 月惑星科学会議2019から
3月18日から22日に開催された第50回月惑星科学会議(LPSC2019)で、海王星の衛星トリトンを探査するミッションについてのポスター発表があったそうです。
■関係記事
・第50回 月惑星科学会議
LPSC2019 https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2019/
・探査ミッションの報告概要(3月19日)
3188 EXPLORING TRITON WITH TRIDENT: A DISCOVERY-CLASS MISSION
https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2019/pdf/3188.pdf
3200 IMPLEMENTATION OF TRIDENT: A DISCOVERY-CLASS MISSION TO TRITON.
https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2019/pdf/3200.pdf
・ニューヨークタイムズの記事
Neptune’s Moon Triton Is Destination of Proposed NASA Mission
https://www.nytimes.com/2019/03/19/science/triton-neptune-nasa-trident.html
ミッションおよび探査機の名称は「トライデント」。三又の槍のことで、衛星トリトンの名前の由来となっているギリシア神話の神トリトーンが持っている武器。同じく、その父親で海王星の名前の由来になっているポセイドン(ローマ神話のネプチューン)の武器でもあります。
トリートーン(海神) Wikipedia日本語版より
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B3
※トライデントというと、潜水艦発射型弾道ミサイルの方を思い浮かべてしまいます…。
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%88_(%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB))
ウィキペディアによれば、トリートーンはトライデントより法螺貝(conch)で特徴づけられるとのことなので、あるいはそっちでも、という気はしますが、ポセイドンにも共通するからこの名前になったんでしょうか…。仮に法螺貝だと、劇場版「地球へ・・・」を想像させます。
地球へ・・・(アニメ映画版)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E7%90%83%E3%81%B8%E2%80%A6#%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1%E6%98%A0%E7%94%BB%E7%89%88
トライデント計画は、NASAの「ディスカバリー計画(Discovery Program)」の一つとして提案されています。ディスカバリー計画は、大規模戦略科学ミッション(Large Strategic Science Missions、最近では火星探査車キュリオシティなど)やニューフロンティア計画(New Frontiers program、最近では小惑星探査機オシリス・レックスなど)に比べ小規模な「うまい、安い、速い(aster, better, cheaper)」を特徴とする探査プログラムです。最近の例は、水星探査機メッセンジャーや火星探査機インサイト、2022年の打ち上げを計画中の金属質小惑星探査機プシケなどがあります。
ディスカバリー計画
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%BC%E8%A8%88%E7%94%BB
https://en.wikipedia.org/wiki/Discovery_Program
■トライデント計画に関するツイート(スレッド)
LPSC2019に関するツイートの引用をまとめてあります。
■トリトン(衛星)について
図:3188発表概要より
海王星の衛星トリトンは直径約2700km。
惑星探査機ボイジャー2号による1989年の通過観測のとき、氷を噴出する火山活動が発見されています。
海王星から35.5万キロの軌道を約6日で公転しますが、その向きは海王星の自転と逆向きで、捕獲されたカイパーベルト天体ではないかと言われています。大きさや性質が、同じくカイパーベルト天体のひとつである冥王星と似ていると言われています。
ウィキペディア日本語版
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%B3_(%E8%A1%9B%E6%98%9F)
太陽系の衛星の比較 MASA Pavilion3より(衛星名など加筆)
氷の火山活動があることから、内部に海がある可能性も考えられているようです。
■トライデントの飛行計画 その1
図:3200 Fig.1
2026年 4月15日~5月26日 打ち上げ
2026年10月28日 第1回地球スウィングバイ
2027年 3月25日 金星スウィングバイ
2028年 2月 7日 第2回地球スウィングバイ
2031年 2月 7日 第3回地球スウィングバイ
2032年 6月28日 木星スウィングバイ
このとき、木星と衛星イオの観測も行います。地球から4.2AU(天文単位)、太陽から5.1AU。木星最接近点は木星半径の1.24倍(約8.7万キロ)で、衛星イオの軌道の内側に入り込みます。
2038年 6月28日 トリトン・海王星フライバイ
地球から29AU、太陽から30AU。
最接近に先立って、遠距離からトリトン1公転分の高分解能観測を行います。
海王星の照り返し(海王星照)により、ボイジャー2号の観測の時からの変化を観測します。
※なお、この図では、海王星の公転後方(図の下側)をフライバイするように描いてありますが、次の図を見ると、公転前方(図の上側)が正しいように思います。
■飛行計画その2
トライデントは、冥王星探査機ニュー・ホライズンズのように、高速でトリトン・海王星を通過しながら観測を行います。大口径・高分解能の機器で最接近の数百万キロ手前から観測を始めます。最接近の前後数日でデータ収集し、その後1年程度かけて成果を地球に送ります。
図:3200 Fig.2
図は、トリトン、海王星接近時のイベントを表しています。軌道の線上の距離は正確ではありません。
1 最接近点から約860万キロ
トリトンの追尾半球(Trailling hemispere)の近赤外分光観測
トリトンは自転周期と公転周期が同期しており、地球の月や太陽系の大半の衛星と同様、いつも同じ面を中心星(海王星)に向けています。このとき、公転軌道を進んでいくトリトンの後ろ側にあたるのが追尾半球です。後半球と言ってもいいかもしれません。
2a, 2b 最接近点まで約290万キロ
トリトン先行半球(Leading hemisphere)の撮影、近赤外分光観測
先行半球は、トリトンの公転方向前方の半球です。前半球と言ってもいいかもしれません。
3a 最接近点まで約40万キロ
海王星側半球の近赤外分光観測
3b 最接近点まで約31万キロ
海王星側半球の4分割(縦2×横2)モザイク画像撮影
4a 最接近点まで約10万キロ
海王星側半球の分解能200㎜のモザイク画像撮影
4b 最接近点まで約6万キロ~2万5千キロ
追加の高分解能画像撮影
終了後、電波観測開始
〇 トリトン最接近 距離500キロ
トリトンの希薄な大気を通過
プラズマ分光計で電離圏(のガス)を採取分析
三軸磁力計で地下の海の有無を確認
5a 最接近点から3000キロ
トリトンの影に進入
大気掩蔽の開始
5b 最接近点から1万キロ
食画像の撮影
5c 最接近点から1万3千キロ
大気掩蔽の終了
〇 最接近点から2万5千キロ
電波観測終了
6a トリトンの縁の撮像(逆光)
〇 海王星最接近
6b 海王星によるトリトン食の撮影
■飛行計画その3
図:3200 Fig.3
その2で説明されている6つの時点でのトリトンの位置を示したものです。
トリトン・フライバイの詳細を記したのが上記の2つの図です。
通常、北極方向から見た図では、衛星は左回りになりますが、トリトンは逆光衛星なので右回りに描かれています。
海王星は図では右方向に運動していると思います。トライデントはその前方を横切る形となります。これは、探査機の飛行方向をトリトンの公転方向に合わせることで、少しでも観測の時間を稼ぐためではないかと思います。
■関係記事
・第50回 月惑星科学会議
LPSC2019 https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2019/
・探査ミッションの報告概要(3月19日)
3188 EXPLORING TRITON WITH TRIDENT: A DISCOVERY-CLASS MISSION
https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2019/pdf/3188.pdf
3200 IMPLEMENTATION OF TRIDENT: A DISCOVERY-CLASS MISSION TO TRITON.
https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2019/pdf/3200.pdf
・ニューヨークタイムズの記事
Neptune’s Moon Triton Is Destination of Proposed NASA Mission
https://www.nytimes.com/2019/03/19/science/triton-neptune-nasa-trident.html
ミッションおよび探査機の名称は「トライデント」。三又の槍のことで、衛星トリトンの名前の由来となっているギリシア神話の神トリトーンが持っている武器。同じく、その父親で海王星の名前の由来になっているポセイドン(ローマ神話のネプチューン)の武器でもあります。
トリートーン(海神) Wikipedia日本語版より
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B3
※トライデントというと、潜水艦発射型弾道ミサイルの方を思い浮かべてしまいます…。
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%88_(%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB))
ウィキペディアによれば、トリートーンはトライデントより法螺貝(conch)で特徴づけられるとのことなので、あるいはそっちでも、という気はしますが、ポセイドンにも共通するからこの名前になったんでしょうか…。仮に法螺貝だと、劇場版「地球へ・・・」を想像させます。
地球へ・・・(アニメ映画版)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E7%90%83%E3%81%B8%E2%80%A6#%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1%E6%98%A0%E7%94%BB%E7%89%88
トライデント計画は、NASAの「ディスカバリー計画(Discovery Program)」の一つとして提案されています。ディスカバリー計画は、大規模戦略科学ミッション(Large Strategic Science Missions、最近では火星探査車キュリオシティなど)やニューフロンティア計画(New Frontiers program、最近では小惑星探査機オシリス・レックスなど)に比べ小規模な「うまい、安い、速い(aster, better, cheaper)」を特徴とする探査プログラムです。最近の例は、水星探査機メッセンジャーや火星探査機インサイト、2022年の打ち上げを計画中の金属質小惑星探査機プシケなどがあります。
ディスカバリー計画
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%BC%E8%A8%88%E7%94%BB
https://en.wikipedia.org/wiki/Discovery_Program
■トライデント計画に関するツイート(スレッド)
LPSC2019に関するツイートの引用をまとめてあります。
海王星の衛星トリトンを目指す「トライデント」計画か。
— MASA Planetary Log (@MASA_06R) 2019年3月21日
ボイジャーが観測したトリトン南極域の氷火山をもう一度観測するには、2040年までに訪問する必要があるとのこと。#Neptune #Trident #Triton#トライデント #海王星 #トリトン https://t.co/OWD1t7xc09
■トリトン(衛星)について
図:3188発表概要より
海王星の衛星トリトンは直径約2700km。
惑星探査機ボイジャー2号による1989年の通過観測のとき、氷を噴出する火山活動が発見されています。
海王星から35.5万キロの軌道を約6日で公転しますが、その向きは海王星の自転と逆向きで、捕獲されたカイパーベルト天体ではないかと言われています。大きさや性質が、同じくカイパーベルト天体のひとつである冥王星と似ていると言われています。
ウィキペディア日本語版
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%B3_(%E8%A1%9B%E6%98%9F)
太陽系の衛星の比較 MASA Pavilion3より(衛星名など加筆)
氷の火山活動があることから、内部に海がある可能性も考えられているようです。
■トライデントの飛行計画 その1
図:3200 Fig.1
2026年 4月15日~5月26日 打ち上げ
2026年10月28日 第1回地球スウィングバイ
2027年 3月25日 金星スウィングバイ
2028年 2月 7日 第2回地球スウィングバイ
2031年 2月 7日 第3回地球スウィングバイ
2032年 6月28日 木星スウィングバイ
このとき、木星と衛星イオの観測も行います。地球から4.2AU(天文単位)、太陽から5.1AU。木星最接近点は木星半径の1.24倍(約8.7万キロ)で、衛星イオの軌道の内側に入り込みます。
2038年 6月28日 トリトン・海王星フライバイ
地球から29AU、太陽から30AU。
最接近に先立って、遠距離からトリトン1公転分の高分解能観測を行います。
海王星の照り返し(海王星照)により、ボイジャー2号の観測の時からの変化を観測します。
※なお、この図では、海王星の公転後方(図の下側)をフライバイするように描いてありますが、次の図を見ると、公転前方(図の上側)が正しいように思います。
■飛行計画その2
トライデントは、冥王星探査機ニュー・ホライズンズのように、高速でトリトン・海王星を通過しながら観測を行います。大口径・高分解能の機器で最接近の数百万キロ手前から観測を始めます。最接近の前後数日でデータ収集し、その後1年程度かけて成果を地球に送ります。
図:3200 Fig.2
図は、トリトン、海王星接近時のイベントを表しています。軌道の線上の距離は正確ではありません。
1 最接近点から約860万キロ
トリトンの追尾半球(Trailling hemispere)の近赤外分光観測
トリトンは自転周期と公転周期が同期しており、地球の月や太陽系の大半の衛星と同様、いつも同じ面を中心星(海王星)に向けています。このとき、公転軌道を進んでいくトリトンの後ろ側にあたるのが追尾半球です。後半球と言ってもいいかもしれません。
2a, 2b 最接近点まで約290万キロ
トリトン先行半球(Leading hemisphere)の撮影、近赤外分光観測
先行半球は、トリトンの公転方向前方の半球です。前半球と言ってもいいかもしれません。
3a 最接近点まで約40万キロ
海王星側半球の近赤外分光観測
3b 最接近点まで約31万キロ
海王星側半球の4分割(縦2×横2)モザイク画像撮影
4a 最接近点まで約10万キロ
海王星側半球の分解能200㎜のモザイク画像撮影
4b 最接近点まで約6万キロ~2万5千キロ
追加の高分解能画像撮影
終了後、電波観測開始
〇 トリトン最接近 距離500キロ
トリトンの希薄な大気を通過
プラズマ分光計で電離圏(のガス)を採取分析
三軸磁力計で地下の海の有無を確認
5a 最接近点から3000キロ
トリトンの影に進入
大気掩蔽の開始
5b 最接近点から1万キロ
食画像の撮影
5c 最接近点から1万3千キロ
大気掩蔽の終了
〇 最接近点から2万5千キロ
電波観測終了
6a トリトンの縁の撮像(逆光)
〇 海王星最接近
6b 海王星によるトリトン食の撮影
■飛行計画その3
図:3200 Fig.3
その2で説明されている6つの時点でのトリトンの位置を示したものです。
トリトン・フライバイの詳細を記したのが上記の2つの図です。
通常、北極方向から見た図では、衛星は左回りになりますが、トリトンは逆光衛星なので右回りに描かれています。
海王星は図では右方向に運動していると思います。トライデントはその前方を横切る形となります。これは、探査機の飛行方向をトリトンの公転方向に合わせることで、少しでも観測の時間を稼ぐためではないかと思います。
この記事へのコメント
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(宇宙と何の関係もないツイートも多数ありますが…)